2009年03月23日

安政のランニング

edohyaku_benkeibori_small.jpg 皇居を巡る内堀通りの歩道が、多くの市民ランナーで賑わっている。健康ブームも手伝って、ここ数年で特に増えたように思う。現役の選手や有名人のジョギング姿を見かけることもしばしば。1周5kmという切りのいい距離で、その間信号に遮られることもまい。 また、この道は地図で見ると、濠に沿っていて平坦なイメージがあるが、実はかなりのアップダウンがあり、ランニングコースとしては割りと変化に富んでいる。皇居の緑も目に優しい。そんなところが人気の所以かもしれない。
 ランナーの増加で、コース周辺の銭湯が繁盛しているようだ。仕事を終えた人たちが、銭湯で着替え荷物を預けて走りに行き、ひと風呂浴びて帰路につくという具合だ。公衆浴場が消えゆくご時世にありながら、逆に洗い場を拡張した銭湯もある。また、ランナー向けのシャワールームが開業したり、ウェアやシューズの売れ行きも好調のようで、ランニング市場はこの不況をどこ吹く風との感がある。
 安政年間に出版された歌川広重『名所江戸百景』に、このコースが描かれた浮世絵が二葉ある。そのひとつ「外桜田弁慶堀糀町」は、桜田門外から麹町方面を望む構図で、今は桜田壕と呼ばれている弁慶堀が描かれている。 東京の地形は、江戸時代のそれと比べて大きく変わっていないという話を聞く。現在の写真をデフォルメしてこの名所絵の構図に近づけてみると、お堀の有り様や道筋が同じ事に気づかされる。
 右回りにコースを走り、東京タワーを正面に見ながら皇居前広場を過ぎて桜田門をくぐると、右にカーブを描く緩い上り坂のこの風景に出会う。時代が時代なら、向こうから帯刀の武士が歩いてくる、後ろから飛脚が脇をかすめ、早馬が飛び、すれ違う駕篭かきのかけ声が自分の息づかいとシンクロする…。そんな情景を思い浮かべながら、安政のランニングと洒落てみる。ちなみにこの「外桜田弁慶堀糀町」は安政3年の出版。折しもあの篤姫が徳川家定の正室として迎えられた年でもある。

edohyakubook.jpg謎解き 広重「江戸百」 (集英社新書ヴィジュアル版)
 浮世絵師は、木版の印刷技術と版元を経て作品を世に出すことでは、まさに今日のイラストレーターやG・デザイナーといえる。その時代の世相を反映しつつ人々に夢を与える職業である。この本は、安政の大地震と広重の名所絵を関連づけるところから始まる。私には著者の仮説を検証する術はないが、近代日本の幕開けが近い江戸を想像しながらの浮世絵鑑賞である。
posted by ヤマガタ・シュンイチ at 15:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 時を歩く

2009年03月14日

冬眠器

 私はもう何十年もサクラの花をリアルタイムで見ていない。サクラが咲く頃は、まだ冬眠器の中で眠っているからだ。生命維持に必要な栄養はチューブから補給してもらい、特別に調合されたプラスチック羊水の中でゆったりと夢を見ている。自分は寒さが苦手だ。毎年花見の宴会に誘われるが、サクラの咲くころは、まだ寒い、埃っぽい、騒々しい、の三拍子でどうも気乗りがしない。そんなことで断っている。
 友人たちは、そんなに寒いのが嫌いならいっそ暖かい地球に引っ越したらどうだと勧めるが、この生まれ故郷のムーンベースから離れるには忍びない。それに、寒いのは嫌いだが四季の変化は感じたい。どの地域でもほとんど四季の差が無くなった極端に温暖化した今の地球より、ここの環境組成システムの方がまだマシだ。毎年、システムが木枯らしモードになるころ、この安価で高性能なJAPAN製冬眠器の世話になる。
posted by ヤマガタ・シュンイチ at 14:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 夢の中で