2009年04月22日

たんこぶアトム

手塚治虫とボクたち ある年の夏。練馬春日町から自転車に乗って富士見台まで会いに行った。一緒に漫画を描いていた友人HT君と、初めは他数人で訪ねて行ったと思う。いつもお弟子さんたちに玄関払いだった。「今、先生は忙しいから私が描いてあげよう。」と言ってスケッチブックに絵を描いてボクたちに渡した。内心(そんなの欲しくないなぁ)と思った。
 日を違えて、今度はHT君と二人だけで行った。またまた、前と同じようにお弟子さんに「先生は今忙しいから」と玄関払い。すごすごと門の外に出ようと歩いていた時、背後から「お〜い、君たち!」と呼ぶ声がした。振り返ると、2階から手塚先生が笑顔で手招きしていた。その時の手塚先生の声色と、建物の白さは今でも忘れていない。
 お弟子さんたちとは違うスタッフの方に案内されたボクたち二人は、1階の制作室にあった棚の原画を何枚も何枚も食い入るように見ていた。それから2階の手塚先生の部屋に通され、アイスクリームをご馳走になりながら話をした。そして図書室に入り、「ここにある本、2冊以上あるものならどれでもあげるよ。」と言われた。壁に設えた背の高い本棚が、入り口から奧まで手塚先生の本だけでびっしりと埋まっている光景に目を見張りながら、ボクたち二人は、もう興奮で、緊張で、うれしいやら、どうしていいやら、どれにしようかと・・。貴重な初版本の山だったと思う。
 結局、ボクたち二人はどの本も欲しかったのに、何も選べないでいた。すると、見かねた手塚先生が「今度できたばかりの本があるのでこれをあげよう。」といって、二人の前に差し出されたのが『夜明け城』だった。その当時の手塚先生には珍しく時代劇の単行本だった。そして、1階のアシスタント室に移って、その本にサインをしてもらった。友人HT君はヒゲオヤジを、ボクには鉄腕アトムだった。使い慣れないお弟子さんの道具だったからだろうか、ボクの本にアトムを描いているとき、ポタッと一滴、アトムの頭にインクが垂れた。先生はあわてもせず、近くにあったちり紙をこよりにして口で湿らせインクを吸い取ったが、しっかり跡が残った。その時、先生が私に何か言ったように思うが思い出せない。正直ちょっとだけがっかりしたが、今思えば大変な希少価値ものだ。何と言っても手塚先生直筆の「たんこぶアトム」だからね。
 見学の様子を写真に撮っていただき、後日送ってもらった。この時、ボクたち子供相手に優しくそして丁寧に案内していただき、写真まで送ってくださったスタッフの方は、後に手塚先生の弟さんだと知った。ありがとうございました。
posted by ヤマガタ・シュンイチ at 21:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 時を歩く
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